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名古屋高等裁判所金沢支部 昭和43年(行コ)1号 判決

控訴人(原告) 北星ゴム工業株式会社

被控訴人(被告) 魚津税務署長

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人が、控訴人に対し、昭和三九年四月二七日付でなした昭和三七年一一月一日より昭和三八年一〇月三一日に至る事業年度以降青色申告書提出承認を取消す旨の処分は、これを取消す。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、「主文同旨」の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張及び証拠関係は、左記に一部訂正附加する外は、原判決の事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。

控訴代理人は、

一、控訴会社が、本件取消処分を知つたのは、昭和三九年四月二八日頃である。

二、原判決事実摘示中、(被告の主張に対する原告の答弁)欄(原判決四枚目表二行目から同裏一行目まで。)を次のとおり訂正する。

「被控訴人の後記二の主張事実中、控訴会社が、本件事業年度において、その備え付けの帳簿の下請工賃勘定に、合計金五六八万三七三七円の架空下請工賃を計上し、これによつて得た簿外資金から、工賃金二〇一万〇六三七円、福利厚生費金一二万二〇〇〇円、家賃金五四万円、交際費金一四万四〇〇〇円を簿外に支出し、その残額金二八六万七一〇〇円と利子収入金三万二七七〇円の合計金二八九万九八七〇円を、一部架空名義の普通預金とし、又は社長等に交際費の名目で支給し、更に、右普通預金のうち金一二〇万円を架空名義の定期預金に切り替えていたこと並びに本件事業年度の確定申告に際し、右金二八九万九八七〇円の所得が申告洩れとなつたことは認めるが、その余の事実は否認する。

なお、前記交際費金一四万四〇〇〇円は、別口利益ではなく、経費として処理さるべきものである。」

三、仮りに、本件について、旧法人税法第二五条八項三号に該当する事実が存在するとしても、青色申告書提出承認の取消処分をなすべき場合の具体的基準を定めた国税局からの通達(甲第七号証)によれば、「脱税額が申告の五〇%を超えていなければ取消さない。」こととなつており、一般にも、右通達による取扱いがなされていることが明白であるから、脱税額が五〇%に満たない本件については、青色申告書提出承認を取消すべきではなく、これに反する本件取消処分は、覊束裁量違反の行為であり、且つ平等の原則に違反しているから取消さるべきである。

と述べ、

被控訴代理人は、

一、控訴会社が、本件取消処分を知つた日が、控訴人主張の頃であることは認める。

二、原判決事実摘示中、(被告の主張)欄(原判決三枚目裏四行目以下一三行目まで。)を次のとおり訂正する。

「控訴会社は、本件事業年度において、その備え付けの帳簿の下請工賃勘定に、合計金五六八万三七三七円の多額の架空下請工賃を水増し計上し、それによつて得た簿外資金から、工賃金二〇一万〇六三七円、福利厚生費金一二万二〇〇〇円、家賃金五四万円の合計金二六七万二六三七円の諸経費を簿外に支出し、その残額金三〇一万一一〇〇円と利子収入金三万二七七〇円の合計金三〇四万三八七〇円の別口利益金から、交際費金一四万四〇〇〇円を支出し、又その残額の一部を架空名義の普通預金としたり、社長等の交際費の名目で支出し、更に、右普通預金のうち金一二〇万円を架空名義の定期預金に切替えるなど所得を隠ぺいして、確定申告書を提出していたものである。

しかして、被控訴人は、右の事実は、旧法人税法第二五条八項三号に該当するものと認めて本件取消処分をしたものであつて、本件取消処分には何ら違法の点はない。」

三、控訴人は、本件取消処分は、平等の原則に違反する旨主張するが、法令の適正、合理的な解釈、適用がなされる限り、所論の如き平等の原則は、当然顕現されているといわなければならない。

しかして、本件事案は、旧法人税法第二五条八項三号に該当する場合であつて、その取消処分が、実質的に法の目的、趣旨に反するが如き事由は毫も存せず、何らの権限の濫用もあり得ない。

なお、通達は、法令の解釈運用についての一つの基準であつて、その遵守に関して行政上の責任問題が生ずることは別として、通達の取扱基準に反するからといつて、その故に違法の問題を惹起することはない。したがつて、この点についての控訴人の主張は理由がない。

と述べ、

(証拠省略)

理由

一、当裁判所も、原判決と同じく、控訴人の本訴請求は、失当として棄却すべきものと判断する。その理由は、左記に一部訂正附加する外は、原判決と同一であるから、ここにこれを引用する。

二、控訴会社が、本件取消処分を知つた日が、控訴人主張の頃であることは、当事者間に争いがない。

三、原判決中、六枚目裏四行目から八枚目表二行目までを次のとおり訂正する。

「(一)、控訴会社が、本件事業年度において、その備え付けの帳簿の下請工賃勘定に、合計金五六八万三七三七円の架空下請工賃を計上し、それによつて得た簿外資金から、工賃金二〇一万〇六三七円、福利厚生費金一二万二〇〇〇円、家賃金五四万円、交際費金一四万四〇〇〇円を簿外に支出し、その残額金二八六万七一〇〇円と利子収入金三万二七七〇円の合計金二八九万九八七〇円を、一部架空名義の普通預金とし、又は社長等に交際費の名目で支給し、更に、右普通預金のうち金一二〇万円を架空名義の定期預金に切り替えていたこと並びに本件事業年度の確定申告に際し、申告洩れの所得があつたことは当事者間に争いがなく、

(二)、原審証人杉最本芳夫の証言(第一回)によつて真正に成立したものと認められる甲第二号証、成立に争いなき乙第一、二号証及び原審証人市村弘昭、同杉本芳夫(第一回)の各証言を総合すると、前示架空名義の普通預金及び定期預金の預け入れの経緯は、いずれも正規の帳簿に記載せずに、大倉浩名義で、新川信用金庫生地支店に、昭和三八年四月三日金三四万九〇四〇円、同年同月三〇日金三六万〇八五〇円、同年五月三〇日金三六万五五八〇円、同年七月一日金三六万三一九〇円、以上合計金一四三万八六六〇円を普通預金とし、同年八月二三日右普通預金から金一〇〇万円を払戻し、これを同日、大倉浩名義で同支店の通知預金とし、同年九月三〇日右通知預金を解約し、同日、同人名義で同支店の定期預金とし、さらに、同日前記普通預金から金二〇万円を払戻し、これを同日三島二郎名義で同支店の定期預金とし、同年一二月七日前記普通預金から金八〇万円を払戻し、これを同日三島信義名義の定期預金とし、又同年同月三一日、前記普通預金から金四〇万円を払戻し、これを同日大倉浩名義の通知預金としたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

しかして、控訴会社が、意識的に、その下請工賃勘定に、前示のとおり合計金五六八万三七三七円の架空下請工賃を計上したこと並びに本件事業年度の確定申告に際し、金二八九万九八七〇円(右架空下請工賃中経費に充てた以外の支出金二八六万七一〇〇円と利子収入金三万二七七〇円)の申告洩れの所得があつたことは控訴人の自認するところである。そして、前示認定の事実に原審証人市村弘昭の証言を総合すると、右金二八九万九八七〇円に対する控訴会社の前示簿外処理は、控訴会社において脱税の意図をもつてなしたものと推認され、右認定に反する原審証人杉本芳夫(第一回)、同米田歳太郎、当審証人米屋忠男の各証言は、にわかに措信し難い。

してみると、右認定事実は、旧法人税法第二五条八項三号にいう『当該法人の備え付ける帳簿書類に取引の全部又は一部を隠ぺいし又は仮装して記載する等当該帳簿書類の記載事項の全体について、その真実性を疑うに足りる不実の記載があること。』が認められる場合に該当するものといわざるをえない。」

四、次に、前記事実摘示中、控訴人の主張三の点について検討するに、控訴人主張の如き内容の通達が、本件取消処分当時存在していたことを認めるに足る確証はなく、仮りに、右通達が、当時存在していたとしても、右通達は、税務官庁内部における取扱指針に過ぎないものであつて、何ら法的拘束力を有するものでないから、本件取消処分が、右通達に違反したとしても、これによつて、直ちに違法の問題を生ずることはない。のみならず、控訴人主張の通達は、甲第七号証、同第九号証の二の記載即ち、「一、青色申告書の提出の承認を受けている法人が次のいずれかに該当する場合には、その該当する事業年度(……省略……)の末日において、その承認を取り消すものとすること。但し、二から五までに該当する場合において、隠ぺい又は仮装の手段が特に悪質と認められるためその取消を必要とするものを除いては、しいて取消すことをしないことができる。(一)……省略……(二)申告に係る所得金額を更正した場合又は無申告のために所得金額を決定した場合において、当該更正により増加した所得の金額又は決定による所得の金額のうち隠ぺい又は仮装に基く事実による所得の金額が更正又は決定後の所得金額(……省略……)の百分の五十に相当する金額(……省略……)をこえるとき。(以下省略)」を指称するものであることは、その主張並びに本件弁論の全趣旨からして明らかであるところ、成立に争いがない乙第三号証の一、二、原審証人市村弘昭の証言を総合すると、右通達は、控訴人主張の如く、税脱額が、申告の五〇%に満たない場合には取消処分をしない旨を明示したものではなく、その場合でも、なお、情状によつて取消処分をなすことが予定されているものであることが窺い知られこれに反する証拠はないから、結局控訴人の右主張は、いずれにしても、失当として排斥を免れない。

五、果して以上説示の次第であつてみれば、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき、民事訴訟法第九五条第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 島崎三郎 浪川道男 井上孝一)

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